2018/12/13

ASDの二次障害で依存症も|当事者の生きづらさを克服するには?

「ゲーム依存症の息子がASDと診断されました。これからどう関われば良いでしょうか?」

ASDは、DSM‐5で明記された精神障害です。

「自閉症スペクトラム障害」とも呼ばれ、近年注目されている発達障害の1つです。

臨床現場ではASDは、依存症を合併しやすいとも言われています。

あなたの身近には、ASDで依存症になった方はいらっしゃいますか?

もしくはあなた自身がASDと依存症の当事者ではありませんか?

この記事では、ASDの特徴と依存症の併発について、事例を交えながらお伝えします。

目次

1. ASDと依存症の関係|二次障害による生きづらさから依存症へ

ASDは、DSM-5 と呼ばれる精神疾患の診断・統計マニュアルに明記された精神障害の1つです。

ASDは「自閉症スペクトラム障害」とも呼ばれています。

自閉症スペクトラム障害は、「社会的コミュニケーション及び対人相互性反応の障害、興味の限局と常同的・反復的行動を主徴とし、乳幼児期に発言する精神発達の障害」と呼ばれる精神障害の1つです。

例えば以下の症状が考えられます。

・同じパターンの行動を頻繁に繰り返す

・相手の示す方向に目を向けず、自分の興味があるものに没頭する

・学校に通いだすと、先生の指示や内容の意図が汲み取れない

ASDの子は周囲に理解してもらえないことから、自己否定をしてしまい、不安や抑うつなどの精神疾患を併発する場合があります。

周囲からの否定的な評価、それによる否定的な自己イメージから、情緒が不安定、深刻な不適応を起こすことを「二次障害」といいます。

この二次障害ですが、不安障害やうつ病を以外にも、依存症を併発することで知られています。

2. 【体験談】ASDでスマホ依存の女の子

実際に事例を紹介いたします。

こちらは私が今まで関わったことのある子です。

現在中学3年生の女の子で、カウンセリングに通いながら高校受験の勉強をしています。

彼女がスマホ依存になったのは、中学2年生の頃、学校内での人間関係から、人と関わることが怖くなり、家に引きこもるようになったのがきっかけです。

彼女はASDの特徴があり、「相手の気持ちを汲み取りつつ、自分の気持ちを上手に相手に伝えること」が苦手です。

そのため、学校内の友人とうまくコミュニケーションが取れずいじめにあっていました。

ASDの子は視覚優位の特性がある場合があり、つらい体験を映像で記憶してしまう場合があります。

そして、映像を何度もフラッシュバックしてしまい、過去の体験をあたかも今体験しているかのように感じてしまう「タイムスリップ現象」を引き起こすこともあります。

彼女も例外ではなく、学校内の友人のような年代の女の子を見ると、突然泣き出したり、震えが止まらなくなることがありました。

結果、学校でのつらい経験から学校に行けなくなり、外にも出られなくなりました。

学校でのつらい経験から彼女は引きこもるようになりましたが、数か月すると「人と話したい、関わりたい」と思い、スマホで某アイドルのファンサイトや掲示板でチャットをはじめました。

しかし、いざはじめると「もっと話したい」という気持ちを抑えられないこと、また顔の見えないコミュニケーションが難しく、どのタイミングでチャットをやめていいのかわからない等の問題が生じ始めます。

常にスマホが手元にないと不安になり、次第にスマホを触らない生活は難しくなっていきました。

寝るときもスマホを離さず、睡眠・ご飯を食べるとき以外はほぼ常に携帯していました。

心配して母がスマホを取り上げると「返して!」と叫び、モノを投げ、壁を蹴ったりします。

徐々に家庭内でスマホを取り上げられた際、「モノを壊す」「泣き続ける」等が増えていきました。

家族も次第に疲弊していきます。

彼女の母も「スマホなんていい加減やめなさい。勉強しなさい」と叱る日が増え、衝突するようになります。

彼女は母とのいさかいを避けるために、ますますスマホにのめりこんでいきました。

そして、スマホで仲良くなった友達の都合に合わせはじめ、昼夜逆転気味になっていきます。

心配した母親が学習支援や訪問支援を依頼したのはこの頃です。

中学3年生になり、彼女の将来を心配した母は「彼女に寄り添いながら、定期的に彼女と楽しくお話ししてくれる大人」が必要だと考えました。

そのため訪問支援ができる大人を探し、家庭教師を依頼したのです。

家庭教師をはじめることで、2,3か月すると、少しずつ彼女に変化が訪れました。

授業を受けている間、彼女はスマホを触っている時もあります。

しかし普段の彼女の様に、スマホを握りしめ、常時チャットを見ているのではなく、とりあえずそばに置いている状態です。

授業の中で少しずつ成功体験を積んでいく中で、徐々に勉強に対する意欲も増しているようです。

指導する科目によっては、スマホを一切触らず黙々と問題を解く場面、質問をしてくれる場面が増えてきたのです。

このように、寝ているとき、ご飯を食べているとき以外はスマホを触り続けていた彼女が少しずつ、スマホ以外の行動ができるようになってきたのです。

もう1つ変化がありました。

彼女の元々の趣味はピアノを弾くことでした。

彼女を担当する講師もピアノを弾くことが趣味で、そのことを彼女に開示します。

2,3か月の間に関係性が徐々にできてきたのか、「一緒にピアノをやってみない?」という家庭教師の声掛けに、彼女も意欲を示しました。

彼女が外に出られないことも考慮し、季節感を少しでも感じられたらと季節にあった譜面を持っていき、一緒に弾く日もあります。

最近では、家庭教師の先生が来ないときも、家でこっそり練習するそうです。

この過程の中でスマホ以外の余暇の過ごし方を発見し、スマホを触る時間も減っていきました。

彼女は現在、学校の通学以外では何とか外出できるようになっています。

現在はカウンセリングに通いながら高校入試の準備をしているところです。

いかがだったでしょうか?

学校での人間関係での失敗から、彼女は引きこもりになりました。

引きこもる中どうしても人と関わりたくて、ファンサイトを通じて人と知り合い、チャットにはまり、次第にスマホ依存になりました。

しかし、定期的にスマホを使わない時間を作ること、成功体験を積むことなどから、徐々に彼女の気持ちが落ち着き、依存行動も減っていきました。

3. ASDで依存症を抱えた人への3つの支援

最後に、ASDで依存症になった人への支援についてお伝えします。

①底つき体験ではなく、代替のものを与える

依存症治療の際、「底つき体験」といい、依存行動を繰り返した結果、「どん底」を味わい、「このままではもう自分がダメだ、変わりたい」と自覚する経験を言います。

しかし、ASDを持つ人には、「気に入った特定のものや行動を何度も何度も繰り返す」場合があります。

そのため、底つき体験が起きて変わりたいと思っても、その行動がやめられないことがあります。

そうした特定の行動を変えるためには、代替案を提案すると良いかもしれません。

ゲーム依存症の子の治療として、韓国では「レスキューキャンプ」というプログラムを行っています。

このプログラムでは、10日程度山などで過ごし、スマホやゲームをすることはありません。

自然の中で一緒に仲間とご飯を作ったり、登山などをすることで子どもたちがゲーム以外にも楽しみを見出すことを支援していきます。

②認知行動療法をやってみる

認知行動療法とは、症状や問題行動を改善し、社会に適応しづらい、生きづらい思考や行動パターンを系統的に変容していく行動科学的治療法のことを指します。

この療法を通して、「○○しがち、○○あるべき」などの考えが少しずつ収まるようになります。

ASDの当事者は二次障害の際、「タイムスリップ現象」といい、つらい経験をトラウマ的に再度思い出すことがあります。

そのため、トラウマ的な傷を抱えている場合、EMDRなどの認知行動療法も必要になるかもしれません。

注釈)EMDRとは、眼球運動を利用して外傷的記憶の処理を行う心理療法です。現在トラウマ治療の主要の治療の1つともいわれています。

③カウンセリングに通う

カウンセリングに通うことも良いとされています。

ASDで依存症の方の多くが過去につらい経験をし、ASDの二次障害として依存症を発症している可能性があります。

そのため、二次障害になったきっかけである傷つき経験を癒していくことで、これらの症状が緩和される可能性もあります。

具体的には臨床心理士、精神科医等から支持的カウンセリング等をしてもらいながら少しずつ傷を癒していきます。

4. まとめ

  • ①ASDの二次障害として、依存症になる可能性があります。
  • ②ASDの方の依存症治療として、「カウンセリングに通う」「代替案を提案する」「認知行動療法をすすめる」等が挙げられます。

依存症は心の病気です。

依存症になる前からも苦しみ、その苦しみから逃げるように依存症になってしまったのかもしれません。

依存症治療では、当事者がどうしたら生きやすくなるのかという視点を意識し、包括的に支援を行う必要があります。

私たちヒューマンアルバでは、依存症回復に向けた無料相談を行っています。

当事者やその家族の経験をしたスタッフが、一人ひとりに寄り添い対応しています。

ささいなことでも構いません。

何かありましたら、ぜひ一度ご連絡ください。

お問い合わせはこちらから↓

社名: 株式会社ヒューマンアルバ

住所: 〒214-0038神奈川県川崎市多摩区生田6-4-7

TEL: 044-385-3000 (受付時間: 平日10:00-17:00)

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ヒューマンアルバでは、定期的に『家族会を開催しております。

依存症者を回復につなげるためには、まずご家族が対応を変えていく必要があります。

・つらい思いを吐き出す場として

・状況を変えていく学びの場として

ぜひ、ご活用ください。 (お申し込みはこちらから)

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参考:

傳田健三(2017)自閉スペクトラム症(ASD)の特性理解

熊野宏昭 パニック障害に対するEMDRの 効用と限界 東京大学大学院医学系研究科 ストレス防御・心身医学

認知行動療法の多様性

神尾陽子 ライフステージに応じた自閉症スペクトラム者に対する支援のための手引き 国立精神・神経センター精神保健研究所

近年注目を浴びている発達障害

植木田潤 発達障害教育情報センター 研修講義 二次障害の理解と対応 独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所

松本俊彦,小林桜児(2010)薬物依存物質使用障害の心理社会的治療:再乱用防止のための認知行動療法を中心に精神経紙 112巻 7号

菊池春樹,森田展彰,武井仁,田上洋子(2014)性問題行動を示す自閉症スペクトラム障害の青年のためのコーピング・スキル・トレーニング・プログラム開発の試み 東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部-第 21 号

ライター名: 木原彩

※紹介した事例は、記事の趣旨を損なわない範囲で、個人の特定ができないように一部内容を変更しています。また、本人やご家族の同意を得た上で記載しています。